【お仕事15】社会人×大学生の日常BL小説を執筆いたしました|個人様

お仕事実績015
目次

社会人×大学生の日常BL小説

個人様のご依頼で、社会人×大学生の日常BL小説を執筆いたしました。

概要

ご依頼者様個人様
内容社会人×大学生の日常BL小説(当て馬描写あり)
制作期間約8週間
文字数約29000字
傾向二人の関係に悩む受けを、当て馬に嫉妬していることを隠した攻めが優しく包み込む

こだわり

  • 社会人である攻めの包容力と、それに甘えすぎないように努力する受けの健気さに注力いたしました。
  • 当て馬である男性モブを真面目で一途な友人として描写し、読了感を爽やかなものにいたしました。

納品物

依頼主様のご厚意により、納品物を公開させていただいております。

本編(抜粋)

「酩酊メーデー、忘憂フォーユー」

 酒を呑み交わすということは、心の一端をさらけ出すこととほとんど変わらないものだ。
 見汐柚月は、この二週間でその事実を思い知ることになる。

 時は二十一時を超えた深夜。
 柚月は洒落たバーにいた。そこは一見さんお断りと名高い名店で、個室付きでゆったりとしている。店内は密やかで、誰一人として大声など発していない。あるのは、大人びた、いや艶やかな空気感のみ。
 大学生が利用するには、どこか申し訳なさまで感じ取ってしまう高級店であった。
 実際、一人で訪れるとなっていれば、柚月も気後れしてしまっていただろう。だが、彼の隣には、この場に釣り合った大人――西園寺北斗がいたからだ。
 少し前に恋人となった彼ら。今夜は、人目を忍んだデートである。
 食事の余韻を噛み締めながら、二人は席を立つ。ゆるやかな音楽を背に、出入り口に向かった。
 柚月は会計カウンターのほうにチラリと視線を向ける。一歩そちらに歩み寄ったとき、スタッフはにこやかな笑みを浮かべた。彼がお会計を依頼しようと口を開く。
 だが、その前にスタッフは「ありがとうございました」と礼を述べて、頭を深々と下げてしまった。
 そのスタッフの態度で、柚月は察する。また、北斗がお会計を終えていたのだ、と。
「あのさ、北斗ー、」
「ん? なんだ?」
 柚月が言いたいことは分かっているだろう。なのに、北斗はにこやかな笑みを浮かべて、店外に恋人をエスコートした。
 夜風が、柚月のふくれ面を撫でる。車道には僅かな数の車が走っていて、夜の深さを痛感させる。
「……自分の分ぐらいは払うつもりだった」
「知ってる。でも、社会人と学生だし、こんなときぐらい出させてくれてもいいんじゃない?」
「ほんと、そういうとこだぞ」
 拗ねるまではいかないものの、柚月が横顔を逸らす。
「悪いって。奢ってもらう機会が来たら、その時はご馳走になるよ」
 北斗は愛しさから後ろ頭を撫でるために、指を伸ばす。丸い頭を一撫でしてから、片手を降ろした。
「なあ、手つないでもいい?」
 そう言いながら、目はタクシーを探している。冷たい空気に恋人を晒さないための気遣いだろう。
 ここまでの付き合いで、恋人の性格はよく分かっている。次こそは割り勘にしてやると気分を切り替えた。
「……いいよ」
 柚月は返答して、自分から手を差し出す。ただ、視線だけはさまよわせてしまった。
 声に惹かれて、北斗は道路から目を離す。空で固定された手のひらをみとめて、自然と笑顔になった。
「んっ」
 嬉しげな返事をして、手を繋ぐ。柔らかく眉根を下げて、北斗は笑顔になった。
 目前の表情を見て、柚月はつい照れてしまう。つられてか、心の底からか、笑みを浮かべる。
「寒くないか?」
「アルコール入ってるから平気」
「なら、良かった」
 たわいもない会話をしながら、指先に力を込め合う。やや高めの体温は、お酒のせいだけではなく、恋人と接触しているからだ。
 北斗は、もう片手を道路に向けて上げた。一台のタクシーが、ゆっくりと路肩に止まる。
 呼び止めた主は、タクシー運転手と繋いだ手を見比べた。飲酒後とはいえ、賢い彼には冷静な思考が残っている。他者の目があるため、手を離した方がいいんだろうとは考えていた。だが、北斗はあえて空気を読まずに、恋人の手を握ったままタクシーに乗る。
 エスコートされる形で、柚月も車内に乗り込む。一瞬、周りにどう見られるかを気にするものの、選んだ選択はさらに力を込めるというものだった。それは、北斗の意志を尊重したいからであったし、この体温を手放したくない自分の意志を突き通したゆえだった。
「それぞれの自宅までお願いします。住所は、――」
 運転手へ、北斗が行き先を告げる。時間帯のせいか、聞き手は静かに仕事をこなすばかりだった。
 話し終わると、座面へ体重を委ねる。こうして、タクシーの後部座席には心地よい沈黙が流れた。二人は手を重ねて、横並びで同じ景色を通り過ぎていく。直線の大通りを過ぎ、数度曲がり、柚月の家の最寄りへと近付いた。
 名残惜しさから、指先がさらに熱く絡む。まるで、一つになれればいいのにと願う動作で、言葉で言っても伝わりきらない哀情と愛情を、二人は分け合った。

(略)

た。北斗はにこやかな笑みを浮かべていた。だからつい、北斗の胸に飛び込んでしまう。彼の腕が優しく自分を包み込むと、緊張感が少しだけ和らぐのを感じた。しかし北斗の体温が伝わるたびに、心臓が高鳴るのを抑えきれない。
「来てくれてありがとう。今日は二人でゆっくりしような」
 その優しさが、いつも柚月の心をほぐしてくれる。
 リビングに通されると、テーブルには二人分の料理が並べられていた。柚月の好物が並び、お酒も種類豊富に用意されている。北斗はキッチンから料理を運びながら、窓の外の夜景に目を向けた。都会の夜景が静かに輝き、部屋全体に穏やかな雰囲気が広がっている。その光景は、二人だけの特別な時間を象徴しているようで、北斗は内心微笑んだ。
 柚月はその光景に嬉しくなりながらも、どこか緊張感を抱えている自分に気づいていた。これまでに何度か北斗の家で過ごしたことがあるのに、今日はなぜかいつもと違う空気が流れているように感じたのだ。
 お酒が進むにつれ、二人はリラックスしていく。
 軽い話題から始まった会話は次第に深い話へと移り変わっていった。そんななか、柚月はふと、最近自分の周りで起こった出来事を話し始めた。酔いのせいで同じ大学に通う男子学生との会話を途中までしかけてしまい、慌てて口を閉ざす。
「ふぅん、そんなことが? 頼りにされてるんだね」
 北斗は、興味があるような素振りは見せず、あくまで自然に相づちを打つ。
「いや、別に、何も。ただ、サークルで一緒ってだけで……悪かった、話変えようぜ」
 柚月は少し困惑した表情を浮かべたあと、無理やり答える。どこか迷いが見えるその表情は、思考が何かに足を取られていることを暗示していた。
 無理やり、グラスを傾ける。お酒が進むにつれて、柚月は少しずつリラックスし、頬が紅く染まっていった。
 北斗は、そんな柚月の表情を見ながら、彼が安心して過ごしているのを感じ取っていた。だが、その笑顔の裏に悩みが隠れていることも察している。それほど、北斗は柚月を見てきたのだ。隠れた悩みを、どうにかして解きほぐしてやりたいという思いが胸に湧き上がっていた。
 だから、次の手を打つことにした。
「……なあ、柚月。最近、なんか悩んでることとかないか?」
 タイミングを見計らい、軽い口調で話しかけた。あくまで雑談の延長に見せかけて、彼の心の奥に潜む悩みへと自然に切り込んでいく。
 柚月は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。ちびちびとビールを喉の奥に流し込む。心の奥に封じ込んだ悩みが、せり上がってくるのを押さえたかったからだ。
 だが、そんな誤魔化しを選択はできなかった。少し曇った北斗の表情を目にしたからだ。つい項垂れてしまうが、口だけは動かした。
 「……いや、まあ、実はさ……同性相手っていうのもあるし、それに俺が受ける側っていうのもまだ慣れなくて……どうしても不安なんだ。うまくできてるのか、……北斗に満足してもらえてるのか……って」
 北斗は聞き手に徹して、静かに頷く。態度全体で、柚月の言葉を受け止めた。彼がここまで素直に自分の気持ちを打ち明けるのは珍しく、その姿に愛おしさを感じる。
「未知のことに不安を感じるのは当然だ」
 それを顔に出さず、彼が安心できるような言葉を選んでいく。
「誰だって、初めてのことには怖さがあるし、それを感じるのは自然なことだ。でも、無理する必要はないんだよ。お前がどう感じるか、それが一番大事だからさ。俺はお前が無理しているのを見たくないし、そんなことをさせるつもりもない」
 説得の言葉に、柚月は少し驚き、そしてほっとしたように微笑んだ。その表情は、どこか安心したような表情で、北斗にとってはそれだけで十分だった。
「……ありがとう、北斗。お前がいてくれると、本当に助かるよ」
 柚月は照れくさそうに礼を言いながら、グラスを持ち上げ、最後の一口を飲んだ。

 彼が少しずつ心を開いていく姿を見て、北斗の胸の奥が温かくなった。このまま彼の隣で永遠を過ごしたいという気持ちが、強く込み上げる。
 柚月も悩みを吐露して、肩の荷が下りた気分だった。ごく自然に、彼の肩に頭を預けている。言葉だけでなく、態度でも、感じる安心を伝えたかったのだ。
 その後も、二人は穏やかな空気の中でお酒を楽しむ。北斗は少し酔った柚月の姿に微笑んだ。彼の笑顔がこれからも続くように、そして、彼の悩みが少しでも和らぐように――北斗はそう願いながら、彼の隣に寄り添い続けた。しばらく、その温もりに身を預けた。
「……お前が好きだな、やっぱり」
 北斗の熱は、柚月の熱によく馴染む。相性が良いと直感して、ぽつりと漏らした。
「俺もだよ」
  柚月の前髪をさっと払って、そこにキスをした。
「……今日は、もう帰る?」
「えっと…………」
「急かさないから、ゆっくり考えて。俺が帰ってくるまでに」
 北斗は「シャワー浴びてくるね」と言って、柚月の頭を軽く撫でた。そして、冷蔵庫から水を取り出して手渡す。
「そこのソファに座ってて。自由にしていいから」
 大人の微笑を浮かべ、北斗は浴室に消えた。

(略)

 柚月の問いかけに、北斗は穏やかな笑みで答える。困惑する年少者を置き去りにしている自覚はあるらしいが、アクセルを踏む力が弱められることはない。車は、大学の傍の駐車場まで辿り着いた。
 安全運転を保ったまま停車すると、北斗はエンジンを切る。戸惑いが隠せない柚月に目を細めて、ドアを開け、そちら側に回った。それからエスコートするように、ドアを開けてあげる。
「行こうか」
「お、おう……?」
 今日は仕事があったはずじゃ……、と柚月は訝しむ。だが、北斗がこうなったときは意志が変わらないと理解しているので、されるがままになった。
 北斗達は並んで歩く。近隣に住む大学生達にとっては通学路のようなもので、見知った顔も一人二人、見受けられた。
「あの、なんで……?」
「たまには、こうして一緒に歩いてみたくて」
 春風のごとき声音であるが、それは嘘まじりの言葉だった。半分が嘘なのだと知り得るのは、北斗だけ。何しろこれはそう、――牽制だ。
 誰に対して? なんて問答は無意味だ。そんなものは決まっている。
 そして、神様は残酷だ。今日、青年の恋が終わるように、恋人達と恋敵を出会わせてしまうのだから。
 「あ……」と、小さくも深刻な母音の叫びが二人の耳に届く。
 自然と顔をそちらに向け、柚月は偶然に瞼を瞬かせた。
 告白してきた彼がそこにいて、居酒屋で告白を断った時よりも青ざめている。
 何か言葉を掛けようとして、口をつぐむ。下手な慰めは、もっと彼を傷つける気がして、柚月は思考を迷わせた。何か言っても、言わなくても、深手となる予感がしたのだ。
 その姿を見て、北斗は察した。姿も名前も知らない相手だが、彼があの同じサークルの彼なのだろう。
 ただ顔を合わせただけなのに、北斗のなかでドス黒いものが鎌首をもたげた。まだ、柚月と彼が会話しているところさえ、目にしていないのに、である。
 腰に手を回し、柚月をさりげなく、されどしっかりと自分の元に引き寄せた。
「ああ、どうも、……君か」
 優しい世話焼きのOBの皮はまだ被れているだろうか? 思考の隅でそんなことを思いながら、北斗は白々しく会話しはじめた。
「君なんだろ? 柚月が普段お世話になってる同級生って?」
「あ……いえ……その……はい」
 青年も、柚月と同じ大学に通うレベルの頭脳はある。それがあからさまな見せつけだと、気が付かないわけがなかった。
「君のことは柚月から聞いたことがあるよ。飲み会の幹事とか、積極的にやってくれる良い奴だって」
 北斗は「良い奴」の部分に、イントネーションを置いて発声する。もちろん、嫌味だ。
「柚月って、こうみえて、たまに抜けてるときがあるから、その時は俺に声かけて。大丈夫、俺、時々大学院のほうにいるから」
 何かあっても駆けつけるからな、と言外に匂わせれば、青年には伝わったようだ。恋敵への嫉妬なのか、大人げない態度に対する恐怖なのかは判断がつかないが、肩を震わせた。
「な、柚月?」
 北斗の指先が、頬に触れる。柚月が、くすぐったそうに微笑む。三十秒にも満たない触れ合い。極近い距離にもかかわらず、柚月は拒むどころか、身を委ねるばかりであった。
 その柔らかくも温かい戯れは、青年の心に失恋の二文字を突き付けるのに十分である。
 恋敵の喉がひくつく。腹の底から込み上げるものがあって、目の奥が熱かった。一度ならず、二度までもフラれた気分で、青年はやけっぱちになりそうになる。
 でも、目の前には、以前よりも幸福そうに笑う想い人がいた。
 「はっ、あ……」とため息と嗚咽が混ざったような声を押し殺す。
 目元を乱暴にぬぐった様子を見て、北斗は少しばかり警戒した。
「その……」
 これ以上涙を流さないようにするので、精一杯のように、言葉は途切れ途切れ。
 恋人の腕の中で、柚月は、それに耳を澄ませる。ケジメのような気がしたのだ。
「……えっと……」
 周囲の奇異な視線は気にならない。二人の世界に割って入ろうとした青年は、不器用な笑顔を浮かべた。
「柚月……、いや、」
 慕わしげに名前を読んでから、唇を一文字に結ぶ。一瞬、歯を下唇に立ててから、再度口を開いた。
「その、見汐と、幸せに、なってください」
 言い切る。北斗と目が合っても、青年は目を離さなかった。
「当然」
 その端的な返答は、敗れた恋敵にかける情けだった。あるいは、揺らぐことがない決意の表れで、プロポーズの前哨戦のようなものだ。
 それを聞き遂げると、青年は駆け出した。大学に吸い込まれるような背中は、もう振り返ることはない。失恋した直後にも講義をうけようとするところからもわかるように、真面目な人間なのだろう。それが彼の美点であり、そんな相手に愛された柚月の人徳も窺い知れた。相手が柚月でなければ、北斗も彼の恋路を応援したかも知れない。
 息を潜めていた柚月は、ふぅ、と声を漏らす。
「……一応聞くけど、大学まで着いてきた用事って?」
「ああ、今、終わった」
 わかりきっていたとはいえ、意図を聞かされると恥ずかしい。
「……あいつを諦めさせるためにわざわざ?」
「わざわざっていう言い方は良くないな。重要なことだから、時間を割いただけだ」
「あのさ、俺が浮気するって、思ってないよね……?」
「当たり前だろ」
 拗ねた柚月に流し目で答える。
「だけど、可能性は潰しておきたい」
 軽やかな口調に見え隠れする独占欲。
 身に馴染んだ甘い毒が、柚月の胸をじんわり喜びで焦がす。
「そんな、可能性ないって、自信持てよ。北斗が思ってるより、俺、お前のこと好きなんだから」
「うん、知ってる柚月。だからこれは、ただの俺の我が儘なんだって」
 勝ち誇るのとは違う、無邪気な笑みで彼は語る。誰かを奪われるかもしれないと懸念するようになるなんて。柚月と出会う前の北斗が今の自分を見れば、馬鹿なことを一蹴するかもしれない。

(略)

頂きましたお言葉

うちよそ小説をご依頼させて頂きました。
作品内容は勿論、ご対応も終始丁寧で安心してお取引が出来ました。
また是非とも、ご縁を頂けましたら幸いでございます!

SKIMAの評価より引用)

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愛が重いシチュエーション、綺麗な文章が得意です。
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